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【書籍紹介】脳のなかの免疫、免疫のなかの心 モンティ・ライマン (原著)  脳と免疫は会話している

2026-08-15、
本日の書籍紹介は、脳のなかの免疫、免疫のなかの心 モンティ・ライマン (原著) です。

■心・脳・免疫・腸は一つのシステムである
脳・免疫・腸は互いに密接につながり、心と身体の健康を共同で作り出している。病気や感情を理解するには、心身を分けずに一つのシステムとして考える必要がある。

本書は近年急速に発展している「神経免疫学(Neuroimmunology)」の一般向け解説書です。

従来の医学では、

は別々のシステムとして考えられてきました。

しかし最新研究では、

ことが次々と明らかになっています。
著者は「心と身体は一体である」という新しい医学観を紹介しています。

 

1.私の体験と重なる部分

について以前からブログで記載していました。

この本の視点で見ると、術後の体調変化は単純な体力低下だけではなく、

が複雑に関与している可能性がある、という理解になります。

もちろん個別の症状の原因は主治医の診断が必要ですが、「体の病気と心の状態は切り離せない」という考え方は、術後の回復を考えるうえで非常に参考になります。

2.脳と免疫系は「血液脳関門」を越えて常に双方向に「対話」している

脳は血液脳関門があるせいで免疫が関わる事ができないと言われているが、内受容感覚により情報をやり取りしている事が研究でわかってきている。

従来は「脳は血液脳関門(BBB: Blood-Brain Barrier)によって免疫系から隔離された特権領域(Immune Privilege)」とされていましたが、近年の研究によって、脳と免疫系は血液脳関門を越えて常に双方向に「対話」しており、その情報の知覚・統合プロセスに「内受容感覚(Interoception)」が深く関わっていることが明らかになってきています。  

具体的にどのように免疫情報が脳へ伝わり、内受容感覚として処理されているのか、そのメカニズムと最新の研究知見を整理します。

1)免疫情報が血液脳関門を越えて脳へ届く「3つのルート」

血液脳関門(BBB)は免疫細胞や高分子物質の侵入を防ぐバリアですが、免疫系は以下の迂回路や情報伝達経路を使って脳へシグナルを送っています。

神経経由(迷走神経ルート):
末梢の組織で炎症や免疫反応が起きると、サイトカイン(免疫の化学物質)が分泌されます。これが末梢の迷走神経(Vagus nerve)末端を刺激し、電気信号として脳幹の孤束核(NTS)へと瞬時に伝達されます。

脳室周囲器官(BBBの穴)ルート):
脳の特定の領域(脳室内にある脳室周囲器官など)は、血液中の成分を監視するためにあえて血液脳関門が緩く作られています。ここからサイトカインが直接感知され、脳内へと情報が読み込まれます。

髄膜・リンパ系ルート(Glymphatic system):
近年の重大な発見として、脳を包む「髄膜」には独自のリンパ管や免疫細胞が存在し、脳脊髄液(CSF)を通じて脳内の異物排出や免疫応答を直接担っていることがわかってきました。

 

2)免疫情報は「内受容感覚」としてどう処理されるか?

内受容感覚(Interoception)とは、心拍、呼吸、胃腸の動き、体温など「身体の内部状態を感じ取る感覚」ですが、末梢の免疫状態(炎症や感染のシグナル)もまた、広義の内受容シグナルとして脳に捉えられています。

(1)免疫シグナルの入力:

末梢からの免疫情報(迷走神経や脳室周囲器官経由)は、脳幹から島皮質(Insular cortex)や視床下部へと伝わります。島皮質は「内受容感覚の最高中枢」であり、身体内部のマップを描いている場所です。

(2 )病気行動(Sick Role / Sickness Behavior)の引き起こし:

脳が末梢の免疫シグナルを「内受容感覚」として感知すると、感染や炎症に対処するために行動を変更する命令を出します。これが発熱、倦怠感、食欲不振、抑うつ的な気分といった「病気行動」です。単なる症状の副産物ではなく、脳が体を回復させるために能動的に引き起こしている制御システムです。

(3 )免疫の記憶と再発(Immune Memory in the Brain):

近年(イスラエル工科大学のアサフ・ロザンブラットらの研究など)では、島皮質が過去の体の炎症反応をニューロンのパターンとして記憶していることが判明しました。脳内の特定の神経群を刺激するだけで、過去に起きた末梢の炎症(腸炎など)を再現させることができるという驚くべき発見も報告されています。

 

3)なぜこの発見が重要なのか?

「脳と免疫の対話」および「免疫内受容」の解明は、従来の医学や心理学の境界を大きく塗り替えています。

 ■精神疾患の新たな解釈:
うつ病や慢性疲労症候群の一部は、末梢の微小な炎症が「異常な内受容シグナル」として脳に伝わり続けていることが原因(慢性的な病気行動状態)であるというモデルが支持を集めています。

 ■心身相関(ストレスと病気)の数値化:
「病は気から」という現象が、脳の内受容マップと免疫系の双方向ループ(脳→自律神経・HPA軸→免疫細胞)として科学的に説明できるようになりました。

まとめ
血液脳関門は「免疫細胞の直接の侵入」を制限するバリアではありますが、「情報の遮断」を行っているわけではありません。脳は迷走神経や脳室周囲器官をアンテナとして末梢の免疫状態を「内受容感覚」の一種として常時モニタリング・記憶・制御しています。

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3.どうして脳は体に生じた炎症を記憶したり再発させたれできるのか?

脳が「体の炎症」を記憶し、さらには再発までさせられるという現象は、近年の神経免疫学(Neuroimmunology)において最も刺激的な発見の一つです。

特に2021年にイスラエル工科大学(Technion)のアサフ・ロザンブラット(Asya Rolls)らの研究チームが発表した論文(Cell誌)により、その具体的なメカニズムが解明されつつあります。

なぜそのようなことができるのか、脳の構造と生物学的なメリットの観点から分かりやすく解説します。

1)記憶の仕組み:「島皮質」に炎症のアンサンブルができる

脳が炎症を記憶する主役は、内受容感覚の最高中枢である「島皮質(Insular Cortex)」です。

(1)炎症情報の入力:
大腸や皮膚などで炎症が起きると、サイトカイン(免疫物質)のシグナルが迷走神経や血液を経由して脳幹に伝わり、最終的に島皮質に達します。

(2)神経活動パターン(痕跡)の形成:
島皮質は「体のどこで、どれくらいの炎症が起きているか」をリアルタイムでマッピングします。このとき、特定の神経細胞(ニューロン)の集団が同時に活動し、その回路が強化されます(これを「c-Fos」などの遺伝子発現を指標として特定できます)。

(3)記憶の保持:
炎症が治まった後も、島皮質の中には「あの時大腸で起きた炎症の記憶アンサンブル(神経回路)」が痕跡として残り続けます。あたかも「過去に行った旅行の思い出」が脳に保存されるのと同じ仕組みです。

 

2)再発の仕組み:脳からの自律神経コマンド

記憶された炎症回路が何らかのきっかけ(ストレス、トラウマ、または研究実験での人工的な刺激)で再起動すると、逆ルートで体に炎症が作り出されます。

1. )記憶回路の再起動:
ストレスなどの刺激により、島皮質に保存されていた「炎症の記憶アンサンブル」が電気的に発火します。

2. )遠降性(トップダウン)シグナルの送信:
島皮質から視床下部や脳幹を経由し、交感神経や副交感神経(迷走神経)を通じて、元々炎症があった組織(例: 大腸)へ指令が送られます。

3. )末梢免疫系の再活性化:
末梢組織に届いた神経伝達物質(ノルアドレナリンなど)が、そこに待機していた免疫細胞(血管周辺の肥満細胞やT細胞、マクロファージなど)の受容体に結合します。これにより、実際にサイトカインが放出され、組織の血管が拡張・透過性が高まり、物理的な炎症が再発します。

つまり、脳は「記憶に基づいて末梢の免疫系に直接命令を下すリモコン」を持っているのです。

 

3)なぜ脳はそんな機能を持っているのか?(進化上のメリット)

一見すると「わざわざ炎症を再発させるなんて不都合だ」と思えるかもしれませんが、生命維持においては非常に重要な「予測制御(Anticipatory control)」の役割を果たしています。

古典的条件づけ(パブロフの犬の免疫版):
野生動物において、「以前毒虫に刺された場所」や「腐ったものを食べた状況」に再び遭遇した際、実際に病原体が体内に入り込む前から先回りして免疫系を準備・増強させることで、感染死リスクを減らす適応進化だと考えられています。

アレルギーや病原体への早期警戒:
過去に遭遇した脅威(炎症)を脳が覚えておくことで、身体全体の防御システムを瞬時に立ち上げることができます。

 

4)この発見がもたらす「臨床上の意味」

この「脳の炎症記憶」メカニズムの解明は、これまで原因が特定しにくかった多くの病気の理解を大きく前進させています。

 ■ストレス性疾患・心身症の解明:
過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎、自己免疫疾患の寛解期に「ストレスを感じるだけで症状が再燃する」現象の科学的な根拠になりました。

 ■プラセボ効果・ノシーボ効果:
「この薬を飲むと治る」「これに触れると痒くなる」という思い込み(脳の予測)が、実際に末梢の免疫反応を変化させる生理学的ルートが証明されました。

 ■ 新しい治療法の可能性:
末梢の炎症に対して免疫抑制剤を使うだけでなく、「脳内の病的な炎症記憶回路を特定し、tDCS(頭皮上からの電気刺激)や経磁気刺激(TMS)、あるいは薬物でその記憶を消去・消去学習させる」という、全く新しい治療アプローチ(神経免疫療法)の研究が進められています。

まとめ
脳は身体内部の状態(内受容感覚)を記録するネットワークを持っており、身体で起きた炎症を「島皮質の神経活動パターン」として保存します。そして、自律神経系を通じて末梢の免疫細胞に「炎症を起こせ」という物理的なシグナルを送り返すことができるため、記憶から炎症を再発させることが可能なのです。

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4.脳は身体内部の状態(内受容感覚)を記録するために、どの様なネットワークを持っているのか?

脳が身体内部の状態(内受容感覚)をモニターし、記録し、さらに全般的な制御を行うために構築しているネットワークは、「内受容感覚ネットワーク(Interoceptive Network)」、あるいはその中心的な働きから「サリエンス・ネットワーク(Salience Network: 顕著性ネットワーク)」と呼ばれています。

このネットワークは単一の脳部位ではなく、末梢からの信号を受け取る「階層的な脳部位の連携」によって構成されています。

 

1)内受容感覚ネットワークの主要な構成部位

身体からのシグナル(心拍、呼吸、腸の蠕動運動、体温、炎症など)は、階層を上がりながら集約・統合されていきます。

[末梢組織/臓器] (迷走神経・脊髄伝達路)

[1. 脳幹 (NTS, 覚醒・生命維持)]

[2. 視床 (VPMpc, 中継基地)]

[3. 島皮質 (Insula, 最高中枢・マップ形成)] ───

[4. 前帯状皮質 (ACC, 感情・行動決定)]
↓ ↓
[5. 扁桃体・視床下部 (感情評価・ホメオスタシス制御)]

 

① 脳幹(孤束核: NTS / 吻側延髄腹外側部: RVLM など)

末梢(迷走神経や内臓感覚神経)から送られてくる内臓・免疫シグナルが最初に到達する第1の中継局です。ここでは意識に上らないレベルでの急速な自律神経反射(血圧調整や呼吸リズムなど)が処理されます。

② 視床(VPMpc核など)

脳幹からの信号を受け取り、大脳皮質へ伝達するための「検問所・中継基地」です。雑音となるシグナルをフィルタリングし、必要な情報を皮質へ送ります。

③ 島皮質(Insula)★ ネットワークの「核心」内受容感覚の最高中枢です。
島皮質は特に「後部」から「前部」にかけて情報が高度に処理されるグラデーション構造を持っています。

後部島皮質:
末梢からの一次データ(「心拍が早い」「腸が腫れている」などの物理的シグナル)を客観的な身体マップとして展開します。

前部島皮質(aIC):
後部からのデータに感情や文脈を統合し、「主観的な身体感覚(喉が渇いて不快だ、痛くて不安だ)」として意識化・記録します。

④ 前帯状皮質腹側(vACC / dACC):
島皮質と密接に連携し、内受容感覚に基づいて「次にどう行動すべきか(逃げる、休む、水を飲むなど)」という意図やモチベーションを生み出す部位です。

⑤ 扁桃体・視床下部

 扁桃体:
その内受容シグナルが「恐怖やストレス」に関わるものかを評価します。

 視床下部:
ホメオスタシス(体内平衡)の司令塔であり、島皮質からの情報を受けてホルモン分泌や自律神経への出力を調整します。

2)ネットワークが状態を「記録」するメカニズム

脳がこれらのネットワークを使って身体状態を単にリアルタイムで感じるだけでなく、「記録(記憶)」できるのは、以下の2つのシステムが動いているためです。

A. アンサンブル(神経回路のパターン)化

島皮質や扁桃体のニューロン群は、特定の身体状態(例:重度の腸の炎症、激しい動悸と不安)が起きると、特定の組み合わせで一斉に発火します。この発火パターンがシナプス可塑性(LTPなど)によって回路として強化されることで、「身体状態の記憶アンサンブル」として固定化されます。

B. 予測符号化(Predictive Coding)モデル

最新の脳科学では、脳は単に感覚を受信しているのではなく、「過去の記憶に基づいて、次の身体状態を予測している(内部モデルを持っている)」と考えられています。

(1)予測:
脳(島皮質や前帯状皮質)は過去の記録から「今の状況なら心拍数はこうなるはず」「このストレスなら胃が荒れるはず」と予測を発行します。

(2)誤差の検出:
実際の末梢からの入力(内受容感覚)と予測がズレている場合、その「誤差(Predictive Error)」が更新データとして脳に送られます。

(3)記憶の更新:
この誤差を減らすプロセスを通じて、脳内の「身体マップ(記憶)」が常に書き換えられ、精度が高まっていきます。

3)「サリエンス・ネットワーク」としての役割

島皮質と前帯状皮質を中心とするこの内受容ネットワークは、脳全体のネットワーク切り替えを行う「指揮者」の役割も果たしています。

サリエンス(Salience = 顕著性)の検出:
「体内で炎症が起きている」「著しい不快感がある」といった内受容シグナルを検知すると、サリエンス・ネットワークが起動します。

脳のモード切り替え:
普段のボケーッとしている状態(デフォルト・モード・ネットワーク: DMN)や、外の仕事に集中している状態(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク: CEN)を中断させ、「今は体内で重大な危機が起きているから、内臓の修復と回復(病気行動)に全リソースを向けろ!」と脳全体のスイッチを切り替えます。

まとめ
脳は「脳幹・視床 ➔ 島皮質 ➔ 前帯状皮質」という軸を中心とした内受容感覚ネットワーク(サリエンス・ネットワーク)を持っています。末梢からのシグナルを島皮質で詳細な「身体マップ」として表現し、神経回路の発火パターンおよび「予測モデル」として脳内に記録・蓄積しています。

 

<補足説明> 血液脳関門の機能は?

血液脳関門と通常血管の違い
通常血管が「成分の出入りが自由にできる網目の粗い網戸」だとすれば、血液脳関門の血管は「認証システム付きの二重セキュリティドアで密閉された壁」と言えます。

血液脳関門(BBB: Blood-Brain Barrier)は、脳の血管と脳組織(神経系)の間に存在する「分子レベルの厳格な検問所(選択的バリアシステム)」です。

脳は非常に繊細で高消費な臓器であるため、全身をめぐる血液から必要な栄養を取り込みつつ、有害な物質や過剰な変動から脳環境を守る重要な役割を担っています。

主な機能は大きく分けて4つあります。

1)脳内環境のホメオスタシス(恒常性)の維持

脳内の神経細胞が正常に電気信号(情報伝達)を発振するためには、脳細胞の周りを満たす液体(脳細胞外液)のイオン濃度(カリウム、ナトリウム、カルシウムなど)が極めて一定に保たれている必要があります。

2)有害物質や病原体の侵入阻止(保護機能)

血液中には、食物由来の異物、代謝廃棄物、細菌やウイルスなどの病原体、さらには免疫細胞(白血球など)が流れています。これらが無制限に脳内へ侵入すると、神経細胞が破壊されたり致命的な炎症が起きたりします。

3)選択的な栄養素の取り込みと廃棄物の排出(輸送機能)

物理的に固く閉ざされている一方で、脳の活動に必要なエネルギー源や資材はスムーズに通過させる必要があります。

4)免疫応答の制御(免疫隔離の調節)

従来「脳には免疫が届かない」と言われていた理由がこの機能です。

補足:BBBを構成する細胞(血管神経ユニット: NVU)

BBBは単一の細胞で作られているのではなく、複数の細胞が協調して機能を形成しています。

まとめ
血液脳関門(BBB)は、
「① 有害物質・病原体を遮断する壁」
「② 必要な栄養だけを選んで通す搬入口」
「③ 脳内のイオン環境を完璧に一定に保つ維持装置」
という3つの役割を兼ね備えた、脳の高度な防壁システムです。

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